![]() |
|
おいしいもの大好き つる軒の味噌おでん 藍染めの布張りの引戸 小粋なお座敷には 甘い味噌の香りがいっぱい 大きなお鍋に 大根、角麩、豚バラ、玉子 次々と平らげて おかわり! 文 高田都耶子 (エッセイスト) |
|
屋台のおでん屋に行けない奥さんやお嬢さんに、そのムードを味わってもらおうと始めたので、味付けは女性向きに思いっきり甘くした。「つる軒」のカウンターは、若い女性で大賑いとなった。 「ところが、今度建て直して六畳を三つつくったら、お客筋が変わって、社長さんたちが接客に使うようになってしまった」そうである。 小豆色の和風仕立てのうわっぱりを召してご主人が、気忙しく座敷と調理場を行き来する。「つる軒」のおでんをいただくについては、ちょっとばかり決まりがあり、初心者はご主人のご指導のもと食事を進めていく。 食べるベく具の順番と説明があって、それがまことに楽しい。これを鬱陶しいなどと思う人は、「つる軒」で食事をしてはいけない。また食事をする資格も無い。「大根、角麩、豚バラ、こんにゃく、焼き豆腐は一人二本ずつ。取るときは、取り箸を使って、一つずつ取ってちょうだゃぁ。好き好きで山椒と七味を」 とお許しがでて、私はまず角麩から。角麩は名古屋独特のもので、こちらではすき焼に入れるという。「どう?歯ごたえがいいでしょう?」もちもちとした歯ごたえが、大いに気に入って、実は後で追加でお願いした。 続いてこんにゃくと焼き豆腐。 「散り蓮華で、お味噌をたっぷりかけてください。これはお味噌で食べるもんだでね、味噌をたっぷりとね」 普通の焼き豆腐だと、煮込むうちにくずれてしまうそうで、こんにゃく、焼き豆腐、角麩は、いつも決まった店から買っている。 「こんにゃくや豆腐など、だんだんいいのがのうなった。大学なんか行かんでも、そういうものの、いいのを作っとったら食っていけるんだけどね、本当は」 とご主人。 さて、その次は大根を。 「下ごしらえで一番長く煮るのが大根で、ずん銅で二、三時間は煮るんだわ」 |
大きな大根をペロリゆで玉子は、最後に
具はそれぞれ別に煮ておき、最後におでん鍋に合わせ、ひと煮えさせる。 説明を聞きながら、大きいなあと思っていた大根を二切、ペロリと平らげてしまった。幼いころは大根の煮つけが苦手で、大人たちが美味しそうに食べるのが、不思議でたまらなかったのに・・・・・。 途中で調理場へたったご主人は、大ぶりの鉢にたっぷりの味噌ダレを持って帰って来た。玉じゃくしで、鍋の縁すれすれまでタレを注ぐ。さらさらのタレが、やがて煮詰まってとろりとなる。 「私が常にこれをもって回って、味噌ダレを補給するの」 注ぎ回りつつ、ついつい座敷で、長話になるのである。 豚肉はよく煮込まれて、脂身のあの毒々しさがきれいに無くなっていた。 「嫌いでも一ぺん食べてちょうだい。脂のだめな人でも、大丈夫だから」 とおっしゃるとおりであった。 里芋はお腹がふくれるから、はじめに食べてはいけない。 ほとんど具が無くなったころ、ご主人が玉子を持ってくる。 「これは、まだ食べちゃいかんよ。見るだけだでね」 ころあいを見計らい、玉子が飴色に染まるころ、ご飯を運んでご主人が登場する。 「ご飯の真ん中をちょっとへこまして、玉子を載せて、砕いて、味噌をかけて。うちの名物になっとるの」 黄身と味噌が混ざりあって、リッチでオツな味わいであった。「女性向きの味だ」と言う人には言わせておこう。 | ![]() |
「つる軒」のおでんは、体だけでなく心の芯までホカホカと温めてくれる・・・・・